僕がうつ病の症状に耐えられず会社を辞めることを決意した時、ふと過去の自分を思い出すことがありました。それは「自分が一番輝いていたのはいつだったか」ということ。
2005年4月にIT業界に入ったのだけれど、思い返すと社会人生活の中で十分な評価を得られた経験がありません。SEとしてのキャリアの最後には一流企業の一員となれたということがあるものの、異なる企業文化・責任の重さに耐えられず潰れてしましました。
つまり、社会人人生の大半、自信に満ちた思いで日々を送ることができていませんでした。
ならばと、自分が最後に輝けたのっていつだったのかと自身に問うと、それは2014年10月のアイアンマンハワイ世界選手権で99位になれた時であり、チームテイケイ(現チームブレイブ)に所属していた時だったというのが、自分なりの答えでした。
チームテイケイは、シドニー、アテネ、北京、ロンドンの各オリンピックに毎回選手を輩出した、八尾彰一監督率いる名門中の名門の実業団チームでした。
そして、世界選手権エイラート大会、北京オリンピックを境にチームテイケイは廃部となり、新たにチームブレイブが発足されました。
ちなみに現在のトライアスロン界で活躍する選手の多くにも八尾彰一監督の教えを受けた選手は数多く、八尾彰一監督の指導力は天下一品なのです。
僕はそのチームテイケイ時代に24歳から25歳までの約2年間、練習生として地元の京都でアルバイトをしながら兵庫県の猪名川町の合宿所に通い練習に励む通う日々を送っていました。
この頃は朝7時半からのスイム練習に間に合うよう、朝5時に自転車で京都の自宅を出発し50Kmの道のりを通っていました。今思うと精神的にも体力的にも辛い日々ではあったのですが自信を持って「あの頃こそ一番輝けていた」ということができます。
本記事では、八尾彰一監督率いる日本のトライアスロン界を牽引する名門トライアスロンチームの強さの秘訣を、僕なりの解釈を交えお伝えできればと考えています。
※僕はチームテイケイ時代に卒業してしまったため、正直、チームブレイブとなった後の現状のことはよくわかっていません。いませんが、先日参加させていただいた「チームブレイブ感謝の集い」において、八尾彰一監督の教えの根幹が全くぶれていない事がはっきりと伝わってきました。
なのでチームテイケイ時代の僕の経験も現在のチームブレイブに通ずるところがあると確信しています。なので、全国のトライアスリートの皆さん、競技力そして人間力の向上に是非本記事を参考にしていただけたらと思っています。
実践すれば本当に日本一、世界一を目指せますしその実績も多くあるメソッドを以下に記したいと思います(ちなみに当時の僕は「世界一になりたい」と言ってチームテイケイに飛び込みましたw)。
それでは参りましょう。
八尾監督とチームブレイブ感謝の集いにて
指導方針の基本は、人間力の育成です。「明・元・素(明るく、元気、素直)」「勝つことよりも負けないこと」「結果よりも経過を大切に」と言ったフレーズが印象的でした。
またチームブレイブでの活動では「地域の清掃活動」や「素手によるトイレ掃除」も取り入れられています。「素手によるトイレ掃除」は、イエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんが提唱され広まったものと伺っています。
こうした一見競技と関連のなさそうなことも積極的に取り込み心の鍛錬含めた形式を指導の柱とされていました。こうした心の鍛錬が後に述べるトレーニングの直接的効果にシナジーをもたらせているのだと感じます。
精神的に落ち込んだ時に八尾彰一監督のお話を伺うことは、とても癒しになっていたことはよく覚えていて合宿所はいつも笑い声に満ちていたものでした(懐かしい)。
トライアスロンは、スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(ランニング)、トランジション(競技間の切り替え)で構成される競技ですが、チームテイケイでのトレーニングでは実練習の前に1時間以上かけて、体をほぐすトレーニングが取り入れられていました。
これは様々なスポーツ選手が取り入れているワールドウィング代表の小山裕史さんが提唱された「初動負荷理論」による “ほぐし体操” です。
今でこそ有名になったトレーニング理論ですが八尾監督は20年以上前から取り入れられているの理論です。初動負荷トレーニングは、イチロー選手が専用機器をシアトルマリナーズの本拠地セーフコ・フィールドにも導入されたということでも知られていますね。
チームテイケイ時代はこのトレーニングを毎朝1時間以上黙々と行うことで、関節の可動域を広げ故障の予防や体の正しい使い方を身につけることができました。
一日の流れは以下の通りです順番にポイントを解説して行きたいと思います。
これは前項で述べた通りです。基本朝6時から7時半まで各自思い思いのほぐしトレーニングを行います。僕が所属していた期間においてですが、一日中トレーニングをする中で大きな故障者が出なかったのはこのほぐし体操の効果だったと言えるのではないかと感じています。
スイムはほぐし体操の後に実施します。
距離にして3000mほどです。競泳経験者からすると大した距離ではありませんね。
練習メニューとしては、ウォーミングアップ→ドリルメニュー→メインメニュー→クールダウンと、ごく一般的な形式だと思いますが、一工夫されているなと感じたのは例えばメインメニューで100mを12本行う場合、4本×3セットとするように内訳を細かにし、セット内の4本においてもEasy – Middle – Hard – AllOut と言った具合に緩急をつけながらマンネリ化を防ぎ集中させるための施策が込められていたという点です。
また1セット5本でなく4本という構成も味噌で精神的な負荷を低減させているということも聞いたことがありました。
全く泳げなかった僕もこのやり方で、チームテイケイ卒業後には100mを1分20秒サークルで回れるようになったものです。当初50mを50秒サークルで回れなかった僕からするとものすごい進化でした。
※ちなみに上でご紹介している書籍・映像は、テームテイケイ卒業後にYoutubeで見つけた美しい泳法を広められている竹内慎司さん著の「トータルイマージョン」に関するものです。
チームテイケイ、チームブレイブとは関連がありませんが、個人的なオススメ。
※上記書籍はチームテイケイのバイクメカニックをして下さっていたの三島さん著の自転車ルートガイドです。関西に限定されたものですが、近隣が皆様にぜひお手にとって頂ければと思います。
スイム練習後、朝食を兼ねた昼食をとります。その後合宿所の掃除を行い少しの休憩をとった後バイクトレーニングに入ります。
走行距離は日によって差が大きいです。バイク練習をメインとする日には兵庫県猪名川町の合宿所から京都の美山/日吉ダムまでを回る160Kmないし130kmと言ったコースを走りますが、控え目な日は40km程度の時もあります。
もちろん途中の峠でアタックを仕掛ける選手などもいて僕にとって非常にきついトレーニングで、チームテイケイで僕が一番苦労した練習でもありました。
バイクトレーニングに続き、休みなくラストのラントレーニングに移ります。ラントレーニングは基本各自で距離なりメニューを決め取り組むことが多かったです。
僕の場合アイアンマン(長距離型のトライアスロンで10時間以上かける種目)を専門としており、得意パートでもあったのでしっかり12km〜20kmを走破することを意識していました。
一方ショートディスタンス(オリンピックディスタンスと呼ばれる51.5kmをハイスピードで争う種目)を専門とする選手はどちらかというとそれほど距離をこなすトレーニングはされていた印象はありませんでした(10km程度)。
ショートディスタンスではスイムを早くゴールし、バイクの先頭集団に着くことが非常に重要なため、力のかけ方としてのウエイトが前半の競技に置かれていたのだと思います。ショートディスタンスの選手はとにかくスイム・バイクが異常なほど強かったですね。
その他の点について簡単にまとめると
◇食事
基本朝食は食べませんでした。脂肪の燃焼効率を上げるためでした。そしてスイム/バイクの間に朝食兼昼食が入ります。また、バイクで長距離130Kmを超えるような長距離を走るような時は、休憩時にコンビニに立ち寄り補給食をとります。そして夕食は各自自宅で、という感じでした。
また、練習生の身である僕でさえ様々スポンサー様からの補給食を多く分けていただけたことは本当にありがたかったです。グリコ様、森永様、テイケイ健生園様本当にお世話になりました。
◇治療
日々ハードなトレーニングが続くので体のケアも欠かせませんでした。プロの選手たちは週に何度か整体に行かれ、お金がなかった僕であっても週2回は保険の効く接骨院で体をほぐしてもらっていました。
スポーツ選手全般で言えることですが自分ではわからない体の変化を管理するため必要不可欠なプロセスで、日々の疲労のコントロールに際しては整形外科よりも整骨院、接骨院のトレーナーに診てもらうのがベターな選択だからです。
もちろん薬の処方が必要な場合は、特にプロ選手はドーピングコントロールのため専門の医師に相談の上、処方してもらうということをされていました。
◇バイクメンテナンス
高級品であるバイクは毎日磨き、手入れをします。速いと時速70kmにも達する乗り物のため日々のメンテナンスは必要不可欠でした。
チームテイケイでは、川西市猪名川町で自転車店PROGRESSを営む三島嗣治さんが専属でメカニックに就いていただいており、三島さんには格安でオーバーホールいただいたり部品のご提供をいただいていました。
個人的には、いつか三島さんにオリジナルバイクを発注させていただきたいと感じています。先日の
チームブレイブ感謝の集いでも近くの席に着かせていただいたのも何かのご縁かと思うので、これはいつか必ず果たしたいと考えているところです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
日本随一のトライアスロンコーチ八尾彰一監督の指導内容について、極々さわりの部分のみではあるものの、日本一のチームのトレーニングがどういったものか少しでも伝わってくれれば幸いです。
僕自身トライアスロンへの復帰はまだ先になりますが、また必ずハワイのコナの地(ハワイアイアンマン世界選手権のステージ)に立てることを目標に日々のトレーニングに励みたいと思います。
※幸いうつ病には有酸素運動が良いとのことを聞きましたので、一石二鳥です。
もりぞう